「日本人の知らない日本語」をマンガでライフハックの国語編で取り上げました。日本語学校を舞台に日本語の奥深さを紹介しましたが、今回の記事では、日本語学校から派生し、日本語学校を運営している上場企業である株式会社ジェイ・エス・ビーにスポットを当ててご紹介します。
日本にいる外国人ってどれくらい?
日本語学校は、ぼんやりと、こんな勉強をしているんだろうな、と想像はできますが、どのくらいの規模で、どのようなことを目指して学んでいるのか、あまり想像がつかないですよね?
上場企業について知る前に、まずは、日本にいる外国人の数、在留資格別の数などの規模感を把握してみしてみたいと思います。
政府統計の総合窓口の在留外国人統計によると、2024年6月集計の在留外国人の総数は約360万人、うち、アジア圏が圧倒的多数で、310万人が在留しています。
アジア | 310万人(主な国籍:中国84万人、ベトナム60万人、韓国41万人、フィリピン33万人、ネパール21万人、インドネシア17万人) |
南アメリカ | 28万人(主な国籍:ブラジル21万人、ペルー5万人) |
ヨーロッパ | 10万人(主な国籍:英国2万人、フランス1.6万人、ロシア1.2万人) |
北アメリカ | 8.3万人(主な国籍:米国6.5万人、カナダ1.2万人) |
アフリカ | 2.4万人(最多はナイジェリアで0.4万人) |
オセアニア | 1.6万人(主な国籍:オーストラリア:1.6万人) |
360万人の在留者の在留資格は大まかに次のような資格に区分されます。永住・定住者が多いですが、就労の分野では、「就労」、「技術実習」、「特定技能」の3資格を合計して考えられるため、123.5万人となり、永住者・定住者に家族が含まれていることを考えると、「日本で働く」ために在留している外国人が主要であると考えられます。
永住・定住等 | 132万人(配偶者が日本人や永住、定住者である人を含む) |
就労 | 56万人 |
技術実習 | 42.5万人(日本的には国際貢献。自国に帰って技術を活用する) |
特定技能 | 25万人(日本の特定の産業の人手不足を補うための在留) |
留学 | 37万人 |
家族滞在 | 28万人 |
在留資格のうち、日本語学校に主に通っているのは、「留学」(37万人)の資格を持った人たちです。そのうち、日本語学校(法務省告示機関)で学ぶ日本語学習者は2023年度は12万人でした。(文化庁 令和5年度日本語教育実態調査より)
「留学」の在留資格者のうち、それ以外の人(21万人)は、大学等で学習していると考えられます。
日本語学校(法務省告示機関)は、国内に800校以上あるそうです。(なお、2024年度からは管轄が法務省から文部科学省に移るとのこと。)日本語学校に通う外国人の主な目的は、日本語能力向上や、大学・大学院への進学準備などとなっています。多くの人は大学等への進学するための準備として日本語学校に通いますが、一部の人は「留学」の在留資格で日本語学校で日本語に困らない程度に学習した後、「就労」等の在留資格に切り替えて在留する場合があるそうです。
都道府県別の在留者は、東京が70万人、愛知県および大阪府で30万人、そのほか、埼玉県、千葉県、神奈川県、静岡県、兵庫県、福岡県で多いことから、必然的に日本語学校もそのような都道府県に多く展開されている傾向にあります。
日本語学校は、多様な背景を持つ人々が集まり、文化交流や言語学習が行われる場所です。国籍を超えた友情や理解が深まり、日本語を通じた新たな発見が日々生まれます。特に都市部の学校では、世界各国からの留学生が日本の文化や習慣を学びに訪れ、それぞれの国の文化を持ち寄る場ともなっています。
大手の日本語学校
800校以上もあると言われている日本語学校ですが、大手の学校はどのようなところがあるのでしょうか?いくつかご紹介します。
ISIランゲージスクール

収容定員は日本最大を誇る老舗の日本語学校で、東京(池袋、渋谷原宿、高田馬場)、大阪、京都、長野に拠点を展開しています。さらに、2025年4月には収容定員が拠点校単体で、日本最大の4500名となる新宿校を新規開校予定です。オンラインでの受講を含め、短期滞在でのレッスンから進学、就職、アフター6での日常会話のブラッシュアップ等、多様なニーズに対応したコースが特徴です。
就職について、日本語学校では、履歴書の書き方、面接練習等のサポートを打ち出す学校が多い中、ISIのグループ校では、WEBマーケティングやデジタル技術、観光産業などのビジネスが学べるコースを設け、業界に必要な技術が学べる学習カリキュラムを提供してるのも特徴です。
ECC日本語学院

東京(定員100名)、名古屋(定員240名)、神戸(定員150名)に拠点を持ち、総合教育機関ECCグループが運営する信頼性の高い日本語学校で、主体性を引き出し、発信力を強化するECCグループに通じる独自の「引き出す」メソッドを特徴としています。同じ校舎内に他のECCグループのスクールを併設しており、校舎に通う日本人とも交流がしやすいのも選ばれる理由の1つです。
2024年2月からは、ECCブランドアンバサダーに大谷翔平選手が就任しました。大谷選手と、ECCで打ち出してきたブランドイメージ「安心」と「確かな教育」がマッチしていますね。
千駄ヶ谷日本語学校

これまでに50年近くの歴史を持ち、卒業生は3万人以上輩出しています。進学準備教育課程(定員1728名)、大学院進学コース(定員900名)、就職コース(定員100名)というコース展開をしており、HPによると国立および私立の大学・大学院の難関校合格者率が全国1位と謳われています。
オリジナルの教材開発にも定評があり、日本語能力試験の模擬テストは自動採点システムがとられています。気軽に何度も模擬テストを受け、どの分野を強化していけば良いか分かり、日本語をどんどん学習していくことができるそうです。
長沼スクール 東京日本語学校

長沼スクールは1948年に創設され、70年以上の歴史がある学校です。歴史と伝統があり、日本語教育の分野で重要な役割を果たしてきました。創設者の長沼直兄(ながぬまなおえ)氏が開発した問答法「ナガヌマ・メソッド」は、今なお独自の教育法として実践されており、長沼スクールの魅力の一つとして挙げられいます。また、長年培われ、改訂を重ねている教科書や研究誌、パソコン教材にも定評があります。1クラスを3名の教師で担当し、少人数クラスを採用している点も特徴として挙げられます。
京進ランゲージアカデミー

京進ランゲージアカデミーは、進学教室を運営している上場企業、株式会社京進グループの1つです。東京都内4校、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県と国内に9校展開しており、定員は合わせて約4,000名となる大規模日本語学校です。
教育方法としては、脳科学に基づく学習方法、学生の目標達成をサポートする「リーチング」、褒める指導の実践を特徴としています。また、日本一安全・安心な日本語学校を目指し、留学生へのサポートにも力を入れている日本語学校でもあります。
そのほか、東京中央日本語学院も、収容定員1000名を超えており、大きな日本語学校です。
日本語学校を運営する上場企業
日本語学校を運営している上場企業は、先ほど紹介した京進ランゲージアカデミーの株式会社京進、進学塾の明光義塾でおなじみの株式会社明光ネットワークジャパン、学生マンションのユニライフでおなじみの株式会社ジェイ・エス・ビーなどがあります。
上場企業の日本語学校運営はどのような意図で展開されているのでしょうか?
少子高齢化の進む日本国内市場だけに依存せず、外国人留学生や労働者をターゲットにした教育ビジネスで成長を図る。
日本語教育を通じて、海外市場への足掛かりを作る。
外国人労働者を受け入れる企業との連携を深め、ビジネスチャンスを広げる。
このような理由から、日本語学校は単なる教育機関ではなく、新たなビジネスフィールドとして展開されています。
日本語学校は、教育、就労支援、介護などの分野と相性が良く、上場企業はそういった分野にも事業展開しているのが特徴です。
株式会社ジェイ・エス・ビーの事例
有価証券報告書やその他のIR情報を元に、上場企業の一つ、株式会社ジェイ・エス・ビーについてご紹介します。
株式会社ジェイ・エス・ビーの事業概要
株式会社ジェイ・エス・ビーは、不動産賃貸管理事業をメインとしており、学生を対象とした学生マンションの企画提案、竣工後の賃貸運営及び管理業務を行っている会社です。
株式会社ジェイ・エス・ビー | |
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代表者名 | 代表取締役社長 森 高広 |
決算時期 | 10月 |
本社所在地 | 京都市下京区因幡堂町655番地 |
その他事業所 | 東京本部、札幌支社、仙台支社、名古屋支社、大阪支社、岡山支社、福岡支社、欧州駐在事務所(パリ) |
国内グループ会社 | 株式会社ジェイ・エス・ビー・ネットワーク 総合管財株式会社 株式会社OVO リビングネットワークサービス株式会社 株式会社ジェイ・エス・ビー・フードサービス 株式会社東京学生ライフ 株式会社学生ハウジング 株式会社スタイルガーデン 株式会社Mewcket |
設立 | 1990年7月(株式会社京都学生情報センターの業務を引き継ぐ) |
資本金 | 43億375万5850円(2025年3月31日現在) |
売上高 | 695億円(2024年10月期) |
社員数 | 1,156名(うち、株式会社ジェイ・エス・ビーの社員は232名)(2024年10月31日現在) |
平均年齢 | 44.0歳 |
企業理念 | 豊かな生活空間の創造 |
主な事業内容 | 【不動産賃貸管理業】 ・学生マンションの企画提案、運営業務の受託 ・学生マンションの自社開発 ・主に学生向けの不動産仲介業務 ・主に社会人向けの不動産仲介業務 ・主に高齢者向けの不動産仲介業務 ・建物メンテナンス業務、入居者管理業務 ・家賃債務保証業務 【その他の事業】 ・学生支援サービス ・日本語学校事業 ・不動産販売事業 |
ビジネスモデル | 学生を主軸とした不動産サービス(BtoCで学生に向け賃貸住宅を紹介、BtoBで大学や不動産オーナーとの提携により物件管理や開発を行う。学生マンション運営を軸に、就労支援、留学生支援、日本語学校など教育系ビジネスも展開している) |
強み | 学生特化のサービスを強化することで安定的な収益基盤が形成されている |
弱み | 地方大学の志願者数の減少により空室リスクが上昇。若手社会人、単身者向け、留学生を取り込む物件にテコ入れをし、事業の多角化を図る |
【UniLife】学⽣マンション事業で誰もに知られる存在に
株式会社ジェイ・エス・ビーは、「UniLife」でよく知られている会社ですが、学生専門、安心なセキュリティ対策、多様なニーズへの対応、全国展開といった特徴をさらに深め、高校生への詐欺被害防止や住宅リテラシー教育といった啓発活動の取り組み、就職に役立つキャリア形成支援などにも事業を展開しています。
株式会社ジェイ・エス・ビーの強みは以下のような点が挙げられます。
明確なポジショニング | 「学生マンション」に特化したサービス展開で、他社との差別化ができている。学生ニーズに特化した家具付き・保証人不要などの物件設計が強み。 |
全国の大学との提携ネットワーク | 全国の大学と提携し、「推薦物件」として学生へ紹介されることで、集客力と信頼性が高い。 |
自社ブランド『UniLife』の認知度 | 学生向け賃貸情報サイト「UniLife」は知名度があり、オンライン・オフライン両方で顧客接点を確保できている。 |
垂直統合による効率性 | 用地取得、物件開発、募集・仲介、管理、入居者対応までワンストップで行っているため、利益率やサービスの質を維持しやすい。 |
留学生向け事業との相乗効果 | 日本語学校(J国際学院)を運営しており、留学生支援事業とマンション提供を連携させることでクロスセルが可能。インバウンド需要の取り込みにも有利。 |
ストック型収益モデル | 学生をターゲットとしており、一般の賃貸住宅に比べ毎月の家賃収入を中心とした安定的な収益基盤があり、景気変動に強い。 |
特に、学生特化型と垂直統合による効率性は秀逸で、経営を強固なものにしています。
この中で、さらに株式会社ジェイ・エス・ビーは共創・エコシステムの構築を掲げ、関係者(大学・保護者・学生・オーナーなど)との信頼関係を築き、互いに利益をもたらす仕組みを作ることで、「価格競争に巻き込まれない」環境を確立することを目指しています。

日 中期経営計画資料より
探索と深化を図る【両利きの経営】
また、既存の事業の一層の成長を図る「深化」させる一方で、両利きの経営として、新しい領域に挑戦する「探索」も展開し、グループでのシナジー効果も発揮しています。

日 中期経営計画資料より
この事業の多角化により、今後、少子化による学生数の減少が見込まれる経営において、留学生の取り込み、若手社会人へのサービス提供と徐々に事業の場を拡大しているところです。
日本語学校「J-ILA 日本国際語学アカデミー」も、まさにそのシナジー効果を狙って事業展開されています。
まとめ
日本語学校は、在留外国人の数と比較すると多くはありませんが、今後の労働力不足、少子化の影響を考えると、企業の経営戦略にも大きく関わりのあるアイテムとも言えそうです。
日本語学校は、留学生向けの教育だけでなく、企業研修としても活用されています。外国人社員が日本企業で働く際に必要となるビジネス日本語の習得は、より円滑なコミュニケーションと業務の効率化を実現するために重要です。企業が求める特定の業界用語やビジネス文化を学ぶことで、外国人社員が日本の職場に早くなじめるようになり、生産性の向上が期待されます。さらに、グローバル化が進む中で、日本語を駆使できる人材の育成は、日本企業の競争力強化にもつながることでしょう。
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